名古屋高等裁判所金沢支部 昭和43年(く)14号 決定 1968年9月17日
少年 M・R(昭二五・二・五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告申立の趣旨は少年の親権者M・K子の抗告申立書に記載されているとおりであるからここにこれを引用する。
抗告趣意第一点法令違反の主張について
所論は要するに
(一) 保護処分の決定は、決定書を作成し又は調書に記載させて告知しなければならないのに、原決定の告知にはこれがなされておらず、
(二) 審判期日には、家庭裁判所調査官が審判の席に出席し、少年の処遇について意見をのべる義務があるのに、少年の本件審判には調査官が意見を述べたか否か明らかではなく、
(三) 本件審判期日に、少年の担当保護司に発言の機会を与えなかつたのは懇切を旨とした審判とはいえない、
ので原決定には法令違反があると主張するにある。
よつて案ずるに、
(一) については、少年審判規則二条一項、六項によれば、決定をするときは、調書に記載させて決定書に代える場合を除き、決定書を作成することが必要であるが、少年法二四条一項の決定は決定書を作成した上でなければ言渡しをすることができないものではないと解せられるので、本件において仮りに原決定言渡しの時に原決定書の作成がなされていなかつたとしても違法ではなく、本件少年保護事件記録には、少年を特別少年院に送致する旨の決定書が作成編綴されていることが明らかであり、
(二) については、本件記録によれば、本件審判の席に家庭裁判所調査官が出席し意見陳述をしていることが明らかであり、
(三) については、本件審判の席において、既往の事件に付された保護司のために、特に発言の機会を与えるような措置がとられなかつたとしても、少年法二二条の懇切を旨とする規定に何等違背するものではない。
従つて、原決定には所論の如き法令違反は存しない。論旨は採用できない。
抗告趣意第二点事実誤認並びに処分不当の主張について、
所論は要するに、少年は労働意欲があるのに、これがないとした原決定には、情状に関する重大な事実誤認があり、右の誤認を前提としてなされた原決定の処分は不当に重いというにある。
よつて案ずるに、原決定を検討しても、その理由中に少年の労働意欲を否定した趣旨の文言を認め得ず、従つて原審は必ずしも所論のような前提の下に事実を認定したものとは断定し難いのみならず、本件各記録によれば、少年は従来就職先を転々とし、本件事件発生時には家出徒食していた等の事情が看取されるので、仮に原審において所論のような前提の下に事実を認定したとしても、事実を誤認したものと言うを得ない。本件記録によつて認められる少年の行状、経歴、素質、環境、本件犯行の状況等に徴すると、少年を特別少年院に送致した原決定の処分は相当であり、原決定には所論の如き違法不当は存しない。論旨は採用できない。
よつて、本件抗告はその理由がないので、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 沢田哲夫 裁判官 河合長志 裁判官 石田恒良)